ITの世界では常識なことも、人材の世界では非常識だったりするようです。
今回は、IT業界人の観点から、魅力のある求人票についてアプローチしていきます。
どんなターゲットのどんな問題にどんな解決手段を提示していますか?

「あなたのサービスは、ターゲットユーザがどんな人で、その人のどんな課題を、どうやって解決しているの?」
これは、ベンチャーIT起業家に対して、ベンチャーキャピタリスト(投資家)がよく質問する言葉です。
しかも、そのサービスは「Nice to have」でなくて「Must to have」であれと説きます。
「あるといいなレベルではなくて、その人には無くては困る」というサービスを作らなきゃ、そのサービスの成功確度は上がらないというわけです。
例えば、フェイスブックやインスタグラムは、一部のユーザには無くてはならないものになりました。
採用の現場でいうと、indeedはその一つかもしれません。
今までは広告投下などで訪問者が殺到する採用媒体こそ価値があるとされていましたが、今後はAI技術も進みますから、有効な検索クロール型求人媒体がいろいろと出てくるでしょう。
話は脱線しましたが、貴社の求人票は、どんな求職者にとって「応募せざるを得ない」ものでしょうか?
どんな求職者にとって、どんなところが採用競合に優っているでしょうか?
単に求人票をチャーミングに書き換えるだけでなく、経営側に働きかけて、待遇面も是正しないといけない場合もでてくるでしょう。
人件費が多くなっても採用コストや離職率が下がれば、そろばんは合いますので、そういった観点からも見直すといいかもしれません。
SEO(検索エンジン最適化)ノウハウにヒントあり

最近でこそ、このタイプのサービスは有名になりましたが、今にはじまったものではなく、ジョブダイレクト(2006年にリクルートが買収、サービス終了)、ジョブセンス(リブセンス)、転職EX(じげん)など、検索エンジン対策に強い求人媒体は昔からありました。
検索エンジン対策の基本は、前述した、「ターゲット、ターゲットの課題、その解決方法(ソリューション)」の3点に尽きます。「想定キーワード」から検索ユーザの課題とその解決方法を抽出したテキストコンテンツを用意することで、検索上位を狙うというものです。
これを求人票にあてはめて考えると、ターゲットごとに求人票の書き方は変わってきます。
想定した求職者が「おもわずクリックして、最後まで読んでしまって、応募せずにいられない」という求人票の書き方になっているでしょうか?
そんな観点から、求人票を今一度チェックしてみると、色々と見えてくるかもしれません。
求職者の悩みは様々です。「こういう問題だったらうちの会社に入ったら解決するんじゃないかな」と思ったら、その論点で求人票を書いてみるといいでしょう。
もしかしたら、自社にとっては何気ないことでも、ある求職者にとっては現職では不安要素になっている可能性もあります。
ただし、「アットホームな会社!」とか「風通しのいい会社です!」というだけのフレーズはもはや陳腐化しています。
もし、それが本当に自社の強みだったら、超具体的に書くことをお勧めします。
求人票の最適化(Job Sheet Optimization)をしよう!

前述しましたように、検索キーワード対策や、ターゲットをセグメントしたチャーミングなライティング、根本問題としての待遇面の改善、そしてEFO(エントリーフォームの最適化)まで、ユーザイクスペリエンス(ユーザ体験)のすべてのプロセスの見直しを図り、PDCAで運用することが「JSO」です。
今まで、多くのエントリーフォームを見てきましたが、求職者を萎えさせるような面倒な手続きをさせるようなエントリーフォームは嫌われます。
たとえば、姓名の記入欄に「ふりがな欄」は本当に必要でしょうか?
しかも、ひらがなで打ち込むと「カタカナで入力しなおしてください」などのアラートが出たりする。
こんな感じだと、「俺と縁がないのかな?」なんて思われてしまいかねません。
応募者の質をあげるために色々なハードルを作っているといった意図があるのかもしれませんが、連絡先がとれなければ、何もはじまりません。
最悪、電話番号とアドレスだけあれば、なんとかなるのに勿体ない話です。
応募までは、求職者の方が立場が上です。
簡単に応募できる採用競合がいる限り、入力項目が多いというハードルを作るのは賢明な方法とはいえません。
本当に忙しい人、いろいろな求人を当たっている人もいるかもしれません。
めんどくさがりな人、でも、仕事はきちんとやる人もいるかもしれません。
求職者はプライベートの時間を使って、インターネットで就職活動するわけですから、そういった時間や気分にあわせて、適切なテキストコンテンツや画像、エントリーフォームを用意するといいと思います。
なお、EFOに終わらず、応募後のソリューションとして、INSTというサービスもあります。
これは、求職者のスマホにパソコンからSMSを送り、面談設定ができるというものです。
応募後なかなか連絡とれない人は少なからずいて、面談設定率が劇的に上がった企業もあります。
広告のランディングページ(LPO)にヒントあり?

大金をかけてアクセスを呼んでいるわけですから「ランディングページ最適化(LPO)」は広告主にとって死活問題です。
ですから、広告主は複数のラインディングページを作り、ABテストを繰り返し、もっとも費用対効果の高いLPOを用意するという試みを少からずやっています。カイゼンプラットフォームという専門業者もいるほどです。
LPOの基本もまた「ターゲット、問題、解決手段」の3点セットがキモです。
リスティングキーワードによって、最適なランディングページは違うので、ランディングページを使い分けていることはいうまでもありません。
また、なかには、非常に長いランディングページを用意する場合もあります。
テキストコンテンツや画像などで、訪問者を引き込ませ、離脱せずに最後まで読ませて、最後は購入せずにはいられないといった工夫が随所になされています。
売れるネット広告社は、超ロングなランディングページで有名ですが、彼らの報告によると文章長い方がよく売れるそうです。
訪問者の長く時間を奪えば、サンクコスト効果もありますし、他の商品を調べる時間が奪われていきます。
せっかく大枚の広告予算をかけているのに、さっぱりとした枯山水のような求人票をみるとガッカリするのは私だけでしょうか?
とはいえ、LPOの度がすぎると、物販でいうところの景表法違反みたいなことになり兼ねませんから、正直な情報で真摯になって、チャーミングな求人票に書き換えていただきたいところです。
以上、ネット業界界隈からみた世の中の求人票について、述べてみました。
ぜひ採用担当者には、SEOやLPO、EFOなどのノウハウ本を読んでいただきたいところです。
もはや求職者に対するソリューションが無くなってしまった人材業界の歴史

求人媒体・求人ライターの問題はどこにある?
多くの求人媒体は、専属のライターがいて、丸投げできるところがいい点だったりします。
ところが、専属のライターといっても、出来上がった求人票があまりにもピンとこない求人票になっていて、ガッカリしたことはありませんか?
なかには求人票ライティングをアルバイトに任せている業者もあるそうで、コストカットの競争がこの領域でもはじまっています。
(別にアルバイトを否定するつもりはありまん。プロ級の腕前の人もいらっしゃるでしょう)
そもそも、インタビュー内容も本質を捉えていないことがあります。
採用担当が、社内のことや、採用競合のことや、業界のことに詳しくないと、そもそも元ネタが陳腐なものですから、彼らへのインタビューでできあがった求人票も曖昧模糊としたものになる可能性だってあります。
たとえ、ライティングスキルがあったとしても、自社の強みや求職者の問題解決の提示がなければ、チャーミングな求人票にはなり得ません。
転職エージェントの問題はどこにある?
インターネットが普及するようになって、転職エージェントは身近な存在となりました。
それ以前はヘッドハンターと言われる方が、経営者から経営の課題を聞きつつ、その課題を解決できる人材を探し、その人にとってもキャリアアップという解決になるように、人と企業をマッチングしていました。
しかしながら、もはやヘッドハンターはキャリアコンサルタントという名におきかわり、コモディティ化してきており、人材紹介業者は2万社以上になっています。
採用企業側は数百社の紹介会社と契約するというのもざらで、キャリアコンサルタントも1人あたり数十から数百の求人案件を扱っているといいます。
こんな感じですから、求職者にとっては「機械的なマッチング」に見えてもおかしくありません。
ネットで調べれば出てくるレベルの情報しか持っていないキャリアコンサルタントほど頼もしくないことはありません。
本来、転職エージェントが行うべき「キャリアの悩み相談」はおざなりになりやすく、そしてクライアント企業から見ても自社を猛烈にアピールしてくれることも少なくなってきたといいます。
ですので、言い過ぎかもしれませんが、求人票自体が転職エージェントに成り代わるくらいの気持ちで、求職者の悩みに寄り添う必要があるのです。
土地と金だけでは問題解決にならない?
求人媒体というと、まず、所在地や賃金でセグメントされているものです。
アルバイト情報誌は昔気質ですから、まだそれで通用していると思うかもしれません。
しかしながら、この求人難のご時世ですから、賃金はあまりかわらない中のどんぐりの背比べに見えます。
その中で自社を選んでもらうには、他の要素も必要になってきていると言えます。
正社員になると、賃金だけの問題だけでなく、休日数や、勤務時間、福利厚生も見てきます。
そこに「働き方」や「働きがい」、「キャリアアップのイメージ」など、様々な要因があわさってきます。
話はちょっと変わりますが、転職探しは、賃貸物件を探すのに似ています。
おおよその許容範囲の家賃に対して、環境や間取りを見ながら、自分の住むイメージが想像できてはじめて、内見を決めると思います。
先ほどまで、「経営課題として待遇面を再考すべきかもしれない」と申しましたが、何も待遇面は給与だけの問題とは限りません。
例えば、介護の問題を抱えた人には、在宅ワークもOKならばとってもチャーミングな求人票になるでしょう。
現職があまりにも年の差がある職場だったら、同じような年代の集まっている職場を選びたいかもしれません。
また、会社にフットサル同好会があるという要素が応募につながるかもしれません。
事実、猫同伴出勤OKとして、応募数があがった事例もあります。
このように「働き方」にアプローチするだけで、いろいろな角度から自社を見つめ直すきっかけになると思います。
世の中には、出世意欲の強い人もいれば、すでに家庭が裕福で年収にこだわらない人、安定が欲しい人、同僚と和気藹々としたい人、など、たくさんの考え方や価値観の違う人がいます。
幸いにして、いま自社には、現状を良しとして働いてくれる社員はいるわけですから、何かの価値観がマッチングしているはずです。
まずは、そこを強みにして求人票を書き起こして見てはいかがでしょうか?
リファラル採用はどこが問題?

社員に何がしかのインセンティブを与え、知人や友達を紹介してもらうという、いわば縁故採用の現代版です。
友達や知人だから、人となりを知っているし、リアルなキャリアの悩みも相談しているだろうということで、企業にとって採用課題の決定的な解決手段の一つと言えるでしょう。
しかしながら、求職者にとって、そうでしょうか?
友人とはいえ、年収や、現職のネガティブなことまで、共有してますでしょうか?
社員にインセンティブがあるとなると、私は喫茶店で友達を勧誘しているマルチの一派のように見えてなりません。
友達の紹介で入った人にとって、それがあとあと後悔したことになると、その友達を恨むでしょうし、紹介した社員も紹介した手前、先に辞めるとなると、また友達間の関係がギクシャクします。
リファラル採用で、社員は親友を呼ぶでしょうか?
親友を呼べるほど自信のある人の方が少ないのではないでしょうか?
企業にとっては、別に社員の親友ではなくても大丈夫ですが、親友を呼べる会社こそ周囲はその価値を認めると思います。
そして、社員の知人レベルの人だったとしても、その知人とは、将来に親友になる可能性もあるわけで、その芽をつむことになると考えると、やはり「人間関係を利用する」というのはデリケートな問題です。
ですので、リファラル採用は企業にとってはベストソリューションであっても、社員や求職者にとってはベストソリューションではないというこもちょっとは念頭におきたいところです。
求人票は経営者の心の中にあり

彼は「求人票はあって無いようなものだ。求人票は常に経営者の脳の中にあるんだよ」と言いました。
彼の言い分はこうです。
企業の社長というものは、役員であってもいつ切るかわからない。替え玉として役員候補を常に持っておきたいから、信頼できるトップヘッドハンターにだけ打ち明ける。
ましては、採用担当など、コマの一つにすぎない。だから本当の求人票は社長の脳の中にある。
これは大げさかもしれませんが、「求人票はあってないようなものだ」というのは合点があいました。
年収欄に「350万円〜700万円」なんて書いてあれば、求職者はどの額面を信じればいいのかわからないし、いろいろな職種を散りばめているダミー案件も多いからです。とりあえずひっかかればいい的な「釣り案件」や「オトリ案件」などもありますから、求職者は何を信じていいのか懐疑的になるのは当たり前です。
このお話で何が言いたいかというと、あなたが採用担当者なら、上から降ってくる採用ニーズ、下からあがってくる、あるいは横からなげられるニーズは、本当の情報(マジで真剣なニーズ)でしょうか?ということです。
そして採用ニーズが本当(マジ)だとしても、その内容は募集にあたう内容でしょうか?
現場のありえない要望に応えようとするのも無駄ですし、採用競合や求職者のターゲット選定、そして企業と求職者の課題解決になっているか、じっくり聞いた上で対応すべきでしょう。
現場から「あんたは採用担当なんだからどうにかしてよ」といわれた採用担当者が、「あんたは採用媒体なんだからなんとかしてよ」とか「あんたは転職エージェントなんがからなんとかしてよ」と業者に毒づくほど、惨めなことはありません。
効果的な求人票のチェック法とは?

これは、開発者たちの奥さんたちに、パズドラの開発版をプレイさせて、意見を聞くというものです。
普通の主婦でも楽しめるゲームを作りたいということから、嫁チェックを徹底したそうです。
このようなことが一年も続いたということですから、相当の数の改良がなされたことに違いありません。
求人票のもっとも効果的なチェック方法は、まずは社員チェックです。
これを読んで、社員が自社に改めて入りたくなるかを、聞いて見ましょう。
「これは唄った方がいい」という内容があるかもしれません。
社員のそれぞれが、前職でのキャリアの悩みを解決すべく自社に来ているわけですから、十人十色かもしれません。
しかしながら、これは黄金のゴキブリのようなもので、「1匹いれば100人いると思え」というわけです。
同じ問題でキャリアの悩みを抱えている人は100人います。そこにアプローチできるのがとりもなおさず、JS0(求人票最適化)された求人票なのです。黄金のゴキブリ、ぜひホイホイしたいですよね。
他にも、ターゲットに近い友人に見せてみるのも有効です。
とはいえ、友人というものは人間関係を優先するものですから、「あんたのところは〇〇だから採用できないんだよ」といった辛辣な意見は言わないものです。ですので、「あえてダメ出しするなら」などの枕詞をつけて、なんとかヒントをひねり出しましょう。
当然ながら、採用競合のチェックも重要です。
採用媒体内で検索してみたりして、自社よりもチャーミングな求人票が出ていたら要チェックです。
そんな求人票に出くわしたら「お見それいたしました」と感服してから、いいところをパクればいいのです。
※文言の丸パクリは敬意のない行為なので、決しておすすめしてません。また、無いことの要素を盛り込むのもご法度です。やはり、同じ採用担当同士、お互い敬意を払いつつスポーツマンシップに則ってドンチャンやって欲しいところです。
社員はJSO(求人票最適化)コンテンツの宝庫

結局、言いたいことは「社員に聞け!」ということにつきるかと思います。
前述した通り、前職のキャリアの悩みが解決されている事例こそが、同じ仲間を連れて来ます。
BtoBのサービスを展開しているところは、多くの事例(ケーススタディ)がホームページに乗せられています。
その事例のページごとに、同じような課題を抱えた企業を連れてくる効果がそこにはあります。
今では「社員の声」を乗せている採用ページをわりと見るようになりましたが、「前職でのキャリアの悩み解決」に対してじっくりとインタビューされている声はわりと少ないようです。
また、社員の声までじっくり見る人はすでにロイヤリティが醸成されているファン求職者といえますので、そうではない人たちにも知ってもらうために、なるべく求人票に簡潔に盛り込み、その上で社員の声にリンクを飛ばすといった施策がよろしいかと思います。